
搭乗時間短縮シミュレーションに使用されたJALのエアバスA350-900型機
2024年9月にJALと東京科学大学は旅客機への搭乗方式の共同研究をすることで合意しました。筆者は、同年11月に本件の内容を当事者に取材し記事「JALと東科大「新搭乗方式」は何がどうスゴい?ANAとの違いを教授に聞いた」を執筆しました。
搭乗時間が短縮できた研究結果を踏まえ、2025年5月1日に『日本建築学会計画系論文集』(第90巻第831号)にて、東京科学大学の大佛俊泰(おさらぎ としやす)教授をはじめとする研究チームによる論文「旅客機の搭乗方法に関するシミュレーション分析」が発表されました。本研究では、旅客機の搭乗方法による時間の違いについて、シミュレーションを用いて詳細に分析されています。
研究の背景と目的
旅客機の搭乗には、通路の混雑や乗客の荷物収納といった要因が重なり、時間がかかることが課題となっています。とくに近年では、航空会社の定時運航率が重視される中で、効率的な搭乗方法の確立が求められています。本研究では、乗客の行動モデルを構築し、異なる搭乗方法によって搭乗完了時間がどのように変化するのかをシミュレーションによって検証しました。
シミュレーションの概要
研究チームは、機内通路の混雑や乗客の動作(歩行速度、荷物収納時間など)を考慮した行動モデルを開発しました。そして、以下のような複数の搭乗方法を想定し、それぞれのケースで搭乗にかかる時間を比較しました。
前方から順に搭乗する「ゾーン方式」
偶数・奇数列ごとに分ける「交互列方式」
後方から搭乗する「後部優先方式」
ランダムに乗客が搭乗する「自由搭乗方式」など

JALがシミュレーションした搭乗方式を採用したゲートで航空機が出発する様子
搭乗時間の比較結果
シミュレーションの結果、最も搭乗時間が短かったのは「後部優先方式」と「交互列方式」であることが明らかになりました。これらの方法では、通路の滞留が少なく、乗客同士の干渉が減るため、効率的に搭乗が進むことが確認されました。一方で、ランダムな自由搭乗方式は、通路の渋滞が発生しやすく、最も非効率であるとされました。

JALがシミュレーションに協力した羽田発那覇行の航空機
関連記事のご紹介
本研究の筆頭著者である大佛俊泰教授への取材をもとにした筆者の記事第2弾を2025年4月に「飛行機が遅れる原因『あなた』かも……? 知って得する“大手航空会社の遅延実態”」のタイトルで発表しました。旅客機の遅延の背景には、搭乗行動を含む“人間の動き”が大きく影響していることが語られています。
実運用への応用と今後の展望
本研究の成果は、航空会社が搭乗方法を見直す上で有益な指針となります。また、今後は機材ごとの座席配置や乗客の特性(家族連れ、高齢者の割合など)を考慮したさらなる分析が求められます。研究チームは、今後多くの時間が割かれる機内持ち込み手荷物の応用研究の可能性にも言及しています。
本研究は、旅客機の搭乗行動を科学的に分析することで、効率的な運用に貢献することを目的としています。定時運航の重要性が高まる中、今回のシミュレーション分析は、搭乗方法の見直しに向けた実践的なヒントを提供するものです。