タミヤ 田宮俊作会長を偲んで 2023年静岡ホビーショーでの貴重なインタビュー

ホビー
ネクタイの刺繡がF14トムキャットでおしゃれな田宮俊作会長

ネクタイの刺繡がF14トムキャットでおしゃれな田宮俊作会長

模型業界に多大な貢献をもたらし、自社を世界ブランドに育てたタミヤの田宮俊作会長が逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。2023年の静岡ホビーショー会場で、航空ファン誌連載の取材で直接お話を伺う機会に恵まれました。その際の貴重なインタビュー内容をここにまとめ、改めて田宮会長の偉業と情熱を偲びたいと思います。

コロナ禍を乗り越えた強靭な経営と世界的な需要

田宮会長は、コロナ禍においてもタミヤの業績が落ち込むことはなかったと語られていました。その理由として挙げられたのは、世界中の「巣ごもり需要」でした。家で過ごす時間が増えたことで、模型製作を楽しむ人々が大幅に増加し、タミヤの製品が国内外で高く評価されたことがうかがえます。

フィリピン工場が支えるタミヤの品質と生産力

タミヤの製造工場が中国ではなくフィリピンに建設されたことについて、田宮会長は「フィリピンを選んで良かった」と強調されていました。現在もセブ・マクタンに工場を建設中(2023年10月竣工)であり、その理由として時給が低く残業も可能な労働環境を挙げられていました。また、フィリピンの工場では女性や学生も多く働いており、その金型生産能力は日本の2倍に上るとのこと。フィリピン進出から29年という長きにわたる歴史が、タミヤの高い品質と生産力を支えていることを実感させられました。

戦後の日本を生き抜いた模型界のレジェンド

1934年12月生まれで、当時88歳だった田宮会長は、10歳で終戦を迎えられたと話されていました。早稲田大学卒業の3日前に母親を亡くされたという辛い経験や、6人の兄弟がいたたという非常に私的な話でなかなか聞けるものではありません。弟さんが芸大出身であることにも触れられ、芸術や創造への深い理解がご一家の根底にあったことを感じさせられました。

静岡ホビーショーを日本一の規模に育てた田宮会長

模型への情熱の原点:航空機への深い造詣

タミヤが模型メーカーとして歩む以前は自動車屋を営んでおり、戦時中には特攻機「秋水」の座席を製作していたというエピソードも伺えました。敵味方識別表を持っていたことや、カーチス P-40 ウォーホークなどの機体が特に好きだったと話される会長の言葉からは、航空機への並々ならぬ興味と知識が感じられました。

スミソソニアン博物館へ頻繁に足を運ばれ、特に修復施設であるシルバーヒルでB-29エノラ・ゲイを「蹴っ飛ばしてきた」というお話は、その好奇心旺盛さと反戦という思想を茶目っ気な動きで表現できる人柄を象徴していました。また、旧日本陸軍の戦闘機「飛燕」の体当たりや、坂井三郎氏のようなパイロットへの深い敬意も示されており、模型製作における史実へのこだわりが、このような背景から生まれているのだと改めて感じました。

静岡ホビーショーへの熱い思いと顧客への感謝

静岡県知事とも将来のホビー県推進の会談をされるなど、ホビーショーの発展にも尽力されていた田宮会長。学童の日があることを高く評価されており、「予算もあるが、規模を大きくしたい」と、イベントへの強い意欲を示されていました。31歳から毎年アメリカへ行かれているという国際的な視点も持ち合わせており、静岡ホビーショーが東京よりも規模が大きいことを誇りに思っていらっしゃいました。

来場者への感謝の気持ちも非常に強く、北海道や九州など遠方から来た来場者には製品を、20年来場している方にはトロフィーを贈呈するなど、「お客さんを大事にしている」姿勢が深く印象に残りました。

盛況な静岡ホビーショーの会場

世界を舞台にしたタミヤブランドの確立

ニュルンベルク・トイフェアには50年も出展されているというお話からは、タミヤが創業当時から世界を視野に入れていたことがわかります。アリゾナの小売店からも信頼されているというエピソードは、タミヤの「クオリティは一番」という確固たる自信と、それが世界中で認められている証拠だと感じました。特に東南アジア市場を「大きな市場」と捉えており、今後の展開にも期待が持たれました。

「死ぬまでやりますよ」:模型への生涯の情熱

インタビューの最後に、田宮会長は「死ぬまでやりますよ」と力強く語られました。そして、「好きなものを仕事にできて幸せ」という言葉は、模型に生涯を捧げた会長の、偽りのない心境であったと思います。社員にスミソソニアン博物館を見せたいというお話からも、社員への深い愛情と、自社の製品にかける情熱が伝わってきました。

田宮俊作会長の逝去は、模型業界にとって計り知れない損失ですが、会長が築き上げられたタミヤの精神と製品は、これからも世界中の模型ファンに愛され続けることでしょう。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

※航空ファン 2023年8月号連載ヒコーキおもちゃ箱にてホビーショー取材記事掲載済

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