
2021年ドバイエアショー会場にてエチオピア航空のA350のタラップに並ぶ客室乗務員
中東情勢の緊迫化に伴い、日本政府は2026年3月、中東地域に残された邦人の帰国を支援するため、エチオピア航空によるチャーター便を4回運航しました。日本から地理的に離れたアフリカの航空会社が選ばれた背景には、同社の持つ運航規模や機材性能、そしてエチオピアという国家が持つ国際的な立ち位置が深く関係しています。
日本市場における実績と信頼
エチオピア航空が選定された大きな理由の一つは、日本への定期便運航実績がある点です。同社は2015年4月に成田空港への就航を果たし、現在はソウル(仁川)経由で週6便を運航しています。日本政府が緊急時に民間のチャーター機を手配する場合、日本の空港における地上業務や管制との連携がスムーズに行える既就航路線を持つ航空会社は、手続きの迅速化において大きな利点となります。
また、同社は機材の面でも高い柔軟性を備えています。ボーイング787やエアバスA350といった、中東から日本までを直行、あるいは最小限の寄港で結ぶことができる長距離用最新鋭機材を多数保有していることも、迅速な邦人輸送を可能にした要因です。

2021年11月ドバイエアショー会場にて エチオピア航空の客室乗務員
アフリカ最大規模の航空インフラ
エチオピア航空は単なる一国のナショナルフラッグキャリアにとどまらず、アフリカ大陸最大の航空会社としての地位を確立しています。2024年のCirium社データによれば、同社の輸送力は世界36位に位置し、JALと比較してもその差は約13%にまで迫る規模を誇ります。140機を超える保有機材を背景に、スカイトラックス社の「アフリカ最優秀エアライン」を8年連続で受賞するなど、サービスと安全性の両面で国際的な評価を得ています。
特に中東地域へのネットワークはアフリカ大陸以外では最大級であり、日頃から同地域での運航実績が豊富であったことが、緊迫する情勢下での確実な運航につながりました。

2021年ドバイエアショーにてエチオピア航空のパイロット
国際政治におけるエチオピアの役割
運航の背景には、エチオピアという国家の外交方針も影響しています。エチオピアはアフリカ連合(AU)の本部が置かれる外交の要所であり、2024年にはBRICSへの加盟を果たすなど、多方向外交を推進する開かれた国としての姿勢を強めています。新興国間の国際協力にも積極的であり、人道支援に近い性質を持つ邦人救出チャーターの要請に対しても、柔軟に対応できる政治的土壌がありました。
今回の派遣に際し、エチオピア航空日本事務所への聞き取りによると日本政府からの要請はエチオピア航空の本社へ直接行われたとされています。これは、政府間および企業間におけるこれまでの信頼関係が、迅速な意思決定を支えた証左といえるでしょう。
過去の協力実績と今後の展望
日本政府とエチオピア航空の間には、緊急時の協力において過去にも実績があります。2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウンにより、南アフリカで足止めされた邦人を日本へ輸送した際にも、同社のチャーター便が活用されました。
こうした有事の際の連携は、平時からの定期便運航や外交努力の積み重ねによって実現するものです。中東情勢が不安定な中、アフリカを拠点とするエアラインが日本の邦人保護に寄与した事実は、航空ネットワークがいかに多角化しているかを物語っています。今後も特定の地域に依存しない安定的な帰国手段の確保が、日本政府にとって重要な課題となるでしょう。

