
トキエアのATR72-600離陸風景 ©ATR
異色経営者が語る参入の理由と「勝ち筋」の本質
新潟空港を拠点とする地域航空会社、トキエアが新たな局面を迎えています。音楽・エンタメ業界出身の和田直希氏が代表取締役社長CEOに就任し、共同代表だった長谷川政樹氏はCOOに就任、さらに実業家の堀江貴文氏が取締役に参画しました。異色のタッグによる新体制は、従来の航空会社の枠を超えた革新を予感させます。
就任時、和田社長は「ビジネス的に勝ち筋がある」と発言しました。地域航空会社が抱える経営の厳しさが指摘される中で、この「勝ち筋」とは何でしょうか。その本質は、単に飛行機を飛ばすことにとどまらない、「航空産業の民主化」という壮大なビジョンにあります。
和田社長は、収益性が他機に比べ高いとされるATR機材の特性を最大限に活かしつつ、航空事業が持つ地域経済への波及効果、そして独自のブランド力を高めることで、従来の事業モデルでは見えなかった成長の可能性を見出しています。

和田CEO(左)と長谷川COO(右)©TOKIAIR
エンタメとテクノロジーが切り拓く新収益源
新体制の成長戦略の柱は、「エンターテインメントとテクノロジーの融合」です。具体的には、平日の定期便が少ない時間帯を埋める法人向けチャーター便アプリ「SORA PASS」や、二次交通の検索・決済機能も持つスーパーアプリ「TOKILAND」の開発が進行しています。これらは、デジタル技術を用いて既存のビジネスの隙間を埋め、新たな収益源を確保する戦略です。
特に、エンタメ分野で培ったブランディング力は、トキエアの集客と顧客体験向上に大きく寄与すると期待されています。単なる移動手段としてではなく、飛行機に乗ること自体を特別な体験としてデザインすることで、LCCともフルサービスキャリアとも異なる独自のポジションを確立しようとしています。このユニークな顧客体験が、最終的に定期便の利用者を増やし、航空事業全体の収益構造を確立する鍵となります。

トキの羽ばたく様子がデザインされた尾翼 ©ATR
2027年黒字化へ、異例の「小型航空機製造」への挑戦
和田社長は、2027年度の通年黒字化を目指すと明言しています。この目標達成に向けた「最も大きなブレイクスルー」の一つが、新潟の燕三条地域を拠点とした小型航空機の製造構想です。一見、航空会社の事業領域を逸脱したこの取り組みは、日本の航空機製造産業の再興と、地域のものづくり技術を世界に発信する地方創生のモデルを確立するという、二重の意義を持っています。
この異例の挑戦には、ロケット開発に携わる堀江貴文取締役の知見が必要とされています。技術開発への視点に加え、堀江氏の発信力は、トキエアの認知度と企業価値を非連続的に高める重要な経営資源です。
航空のプロフェッショナルが担う「安全・運航」を根幹としつつ、異業種の知見を最大限に活用することで、トキエアは「新潟モデル」を完成させ、日本各地の地域航空会社、さらには地域経済全体を活性化する役割を担おうとしています。

TOKI AIR ATR72-600
©ATR
地域と世界をシームレスにつなぐ未来像
和田社長が最終的に描くビジョンは、「世界をシームレスにする」ことです。これは、単に新潟と国内都市を結ぶだけでなく、航空、デジタル、製造業の異業種が融合した新しいシステムを地域に構築し、その成功モデルを世界に展開することを意味します。トキエアは、単なる移動インフラ企業ではなく、地域産業のプラットフォーマーとして、夢と賑わいに溢れる未来への挑戦を続けていくでしょう。

TOKI AIR機体前部 ©ATR
大手でも国内線経営は厳しい中、トキエアがどこまで集客できるかが注目されます。